行動どうできない僕を変えた、後輩の一言
よし、これで今月のノルマ達成だー!
読書記録をアプリでつけ始めて、早2年。
数値化すると人は管理したくなり、改善したくなるもので、
僕もその例に外れず毎月の読書数をノルマにしていた。
ネット記事のまとめなどによると、収入が高い人は、それに比例するように読書数も多いと言う。そのネット記事をいろんなところで目にしたこともあって、自分でもそれをやってみようと、始めたのがきっかけだった。
本を読むのは好きだし、
高収入の人がみんな本を読むのなら、収入を増やしたい自分も本を読まなくちゃ。読めば上がるんでしょ?
そんな淡い期待をして読書記録を始めたのだった。
本を読むことは楽しい。
未知の世界。
新たな知識。
想像を掻き立てられる物語。
小説や自叙伝は、読む人に、著者の人生や世界を疑似体験させ、
ビジネス書は生きる術を教え、
自己啓発書は明日を生きる力を与えてくれた。
本を読むごとに自分の成長を感じた。
仕事上の問題を解決できるようになったり、
家庭内のことも、ことが大きくならず解決できたり、
自分の未来に希望を持てるようになったりした。
読書の効果をそこそこは感じていた。
だが、どうにも足りない。
自分にはまだなにかが足りない。
収入が足りないというのはおろか、まだなにかが足りていないと感じていた。
まるで自分だけがトレッドミルの上で走っているような感覚。
走っても走っても周りの景色は、変わらなかった。
何がいけないんだろうか……
どうしたらいいんだろう……
そう思いながらも答えがでず、悶々とした日々を過ごしていた。
そんなある時、
「センパーイ、今度合コン行きましょうよー」
後輩、鈴木くんから合コンの誘いだった。
鈴木くんは僕の一期下の後輩。彼は社会人2年目だったが、まだ学生のノリが抜けきらない感じで、ちょっとしたムードメーカー的な存在でもあった。一言で言えば「かるい」やつ。でも病院という静粛な職場では、軽いノリは現場を明るくしていた。
「いやぁ、今回も俺はいいかな」
「えー! ちょっとー! 先輩全然きてくれないじゃないですかー! 」
僕は正直なところ、合コンとかってあまり得意じゃなかった。
というか、そもそも集団での飲み会っていうのが好きじゃない。せいぜい、多くても2対2。全部で四人くらいがちょうどいい。
それに、人見知りしてしまう。
気を遣って話すこともできるけど、でもそれは大人の配慮みたいなもので、本当の会話ではない。
行きたくなさそうにしている僕に、鈴木くんが、さらに一言付け加えた。
「いつまでフェラーリしまっておくんスか? もっとブイブイ言わせましょうよ。先輩なら絶対モテますから!!!!! 表に出さないと誰にもわかんないし、評価されないっすよ〜」
っ!!
……
そうか、そうだったんだ。
だから自分は成果が出てなかったんだ。
まさか後輩に気づかされるなんて。
今思えば自分がしていたことは、フェラーリを一生懸命磨いていただけだ。
汚れを取り、ワックスをかけ、オイルを交換して、ガソリンを入れていただけだ。
自ら運転席に座り、運転したことはなく、まして、鍵を差し込んでエンジンをかけたこともなかったのだ。
つまり僕は、逃げていただけ、だったのだ。
僕は怖かった。
傷つくことが、
違う自分になることが、
それを周りの人がみて評価することが。
その恐怖ゆえに、一歩を踏み出せなかったのだ。
本を読むという誰も傷つかないことばかりやっていた。
本を読んで、大量にインプットすれば、収入が上がると思い込んでいた。
でも現実はそうじゃないんだ。
後輩の一言はそれを気づかせてくれた。
『アウトプット大全』の中で、著者の樺沢紫苑氏は、
「アウトプットとインプットの黄金比は、7対3」と言っている。
自分にはアウトプットが足りない。圧倒的に足りない。
学生ノリの鈴木くんはそれを気づかせてくれたのだった。
トレッドミルから降りて、地面を歩こう。
地面には石もあるし、亀裂もあるし、水たまりもある。
汚れるだろうし、転ぶだろう。
事故に巻き込まれることもあるかもしれない。
しかし、地面を歩けば確実に景色は変わる。
一歩ずつでも、歩き続けることで景色は変わる。
現実を変えたい。
未来を変えたい。
人生を変えたい。
そんな想いがフツフツとわいてきた。
心臓がバクバクしつつも平静を装いながら、答えた。
「じゃぁ、フェラーリ、出しちゃう? 」
「そうしましょう、センパイ! 」
ちょっとの後悔を感じたものの、
僕は小さな一歩を踏み出せたことに、大きく満足していた。
小さくとも一歩を踏み出すこと。
そのアウトプットが重なり、大きな変化になっていく。
この小さな一歩を辞めず、続けていこう。
現実が変わるように、
望む人生になるように。
《終わり》
こちらのコラムは、天狼院書店メディアグランプリにも掲載して頂いております。